トラックの荷台に揺られていると、夕暮れの海に虹が架かっていた。
というよりは、海に刺さっていた。と表現した方が正確だろうか。
海面に突き刺さるように垂直に伸びて、やがてゆるやかなカーブを描く。
この島では、自然界のあらゆるものが、自分の偏見を超えていくらしい。
カメラのシャッターを切る間もない。心に焼き付ける。
島内すべてのカーブミラーと、トンネル内の反射板の清掃。
皆で手分けして、1時間足らずで終わってしまう。
段取りの良さを讃えるべきか、それとも島のサイズに驚くべきか。
昼間に、フットサルの大会があった。
秋晴れの空の下、芝生の上でボールを追いかける。
プレーの一つ一つに歓声があがり、老若男女の笑顔がこぼれる。
そういえばこの光景は、見覚えがある。
協力隊で活動していた、サン・ファンに似ている。
サッカーの試合が始まると、どこからともなくコリセオ(競技場)に集う村人たち。
さほどの技術も戦術も持ち合わせてはいないが、観客の視線に因って
真剣勝負に拍車がかかる。アピールだってプロ並みだ。
削り合うようにして戦う。合間には子どもたちとボールを追いかける。
ボールが1個あれば成立してしまうシンプルさ。そして、熱狂。
娯楽が少ない、ということもできるが、単純に好きなんだろう。
文化としてのフットボール。小難しい解説はいらない。
同じ空間を愉しむだけ。これはまちがいない。豊かだ。
この島にとって、サッカーとは、フットサルとは、スポーツとは
そういった意味合いのものなのだろう。
まちがいない。豊かな時間が流れている。
今日もいい笑顔にたくさん出会ったな。
スポーツで人は一つになれるのだな。
サッカーやっててほめられたことなんてないけど、
やってて良かった。
個人的には、英語がペラペラよりも、世界で通用するステータスだと思っている。
「日本人なのにサッカーうめぇ」
これ最高のほめ言葉だ。
もっと愉しみたい。走れなくなったってボールを追いかけていきたい。
そう。中学3年生の引退試合だったそうだ。
彼らは来年の半年後の3月、島から旅立つ。15の春。
9月も終わりに差し掛かり、いくつかの台風が通り過ぎると、
島には乾いた秋の風が吹き始めた。
路傍には彼岸花が鮮やかな赤を散らし、秋の始まりを告げている。
愛おしい 島のサイズと 彼岸花
そうだ、春の話も、夏の話も、東京の話も、届いた手紙の話もしていなかった。
秋の夜長に、心の井戸を掘り下げてみようか。
空が澄み始めると、星空が一段と輝き始めた。