「 なんだ、? もう、帰るのけぇ? 」
いつでも其処は、あたたかくてやさしい場所だった。
人見知りで口下手と称される彼の周りには、いつも多くの人が集まった。
人が集い、語らい、笑顔がこぼれる場所だった。
妻がお世話になっている。そのご縁で、
さして付き合いの良くない僕にだって、何十年来の友人のような気兼ねの無さで、
其処にいさせてくれた。
今年は、焼酎作りを手伝わせてもらっていた。
麹を混ぜて冷やし、芋を掘り、拾い、運び、つるを切り、洗い、
蒸すために形を整え、蒸し器に入れる、
焼酎のラベルを貼り、封をし、箱に詰める
手伝ったことなんて、大きなシゴトの内のほんの微々たるものだが、
その温かい輪の内側に居られたことの幸せ。
ご自宅で開催されたおつかれ様会。
その少し天井の低い母屋に、本当にたくさんの人が集っていた。
外は激しい冬の嵐。
でも、断言していい。その場に居る全員が心から楽しんでいた。
彼は長机の中心に座り、あまり多くを語らずにお酒を飲んでいたが
本当に、幸せそうに見えた。
「ああ、こういう場をつくるためにこの人は生きているんだな」
みんなが楽しそうにしていることが、心から楽しい。
彼はそういう人だ。だから慕われる。
もし、何年後かにこの島を離れて、
もし、いつかまたこの島に戻ってきたいと思った時に、
きっと、その理由の一つは、彼に会いたいからってことになるのだろうけど、
僕なんかはその想いランキングでは100位以下で、
もっともっとたくさんの人たちに慕われ、想われている。
それでも、トップランカーたちと同様に屈託無く迎えてくれるのだ。
まるくて、やさしくて、そしてあたたかい何かが、その時、僕らを包んでいた。
それは、島桜の木陰にさしこむ春の木漏れ日のように、
秋の柔らかな日差しに照らされた窓辺のように、
いろりで炭を焚きながら語り明かす夜のように、
非の打ち所のない、完璧な幸せだった。
「おはようございます!」
バイクですれちがいざまに声をかけると、ニコッと笑って返してくれた。
それが、僕の最後の記憶です。
その翌朝。
作りかけの焼酎も、絶賛工事中のあの場所も、家も家族も友人も、
クリスマスパーティーのために用意した、食事も飾りもケーキも、
何もかもを置き去りにして、去っていってしまった。
なぜだろう。なぜなんだろうか。
人の命の重さは平等だというけれど、この島では約160分の1
1人1人が重い、本当に重いです。。
ちょうど、その前の晩。なんだか無性に星を撮りたくなって宙を見上げた。
「 なんだ? もう、帰るのけぇ? 」
「 はい、今日は帰ります。 でも、また来ます。必ず来ます。 」
島は、また一つ、大きな柱を失った。
僕はこの、今年のクリスマスの、このあたたかさを、ずっと忘れない。